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明日というか、もう20分後ぐらいですが、練の誕生日ですね。
去年の11月から書きかけだった小話を取りあえず置いてきます。

誕生日らしい内容でもなければ甘くもなく、、、
そして私の書く麻生はどこまでも残念でひどいなと思いました(笑)
しかも続きます。3部くらいで終わらせたい。

タイトルはいいのが思いついたら替えます。

とりあえず練ちゃん、はぴばー+*
実年齢は考えない。考えちゃいけない。

右下の「つづきはこちら」からどうぞ。






◆ 1 ◆






「ねぇ、いい加減機嫌直したら?」

練は麻生の事務机にある椅子を衝立の裏まで引っ張り出し、またぐように座っていた。背もたれに腕と顎を乗せ、足をぶらつかせている。ベッドの上であぐらをかいている麻生は怒ってはいなかった。起き抜けで驚きと衝撃が抜け切らず、どちらかといえば困惑していた。

なぜ彼がここにいるのか。

懐かしい香りだった。
何ヶ月も記憶の中でしか味わえなかった香り、そしてやわらかい髪の感触。自分の腕の中で寝ている練に、麻生は目が覚めたはずなのにまだ夢の中なのだろうか、と思った。
練が空き巣狙いのように鍵を使わずに入ってくることは今に始まったことではないが、別れてからは一度もなかった。

そう、別れたはずだ。
麻生が警察官だったころ捕えた青年は、ヤクザの愛人となり今や春日組の若頭である。
付き合っていた、といえるかどうか曖昧な関係はわずかだった。幾度と無く「足を洗え、盃を受けるな」と説得したが、結局練は聞き入れなかった。そして別れてから練は一度もここを訪れなていない、はずだ。

「なんか言えよ」
足をぶらぶらさせながら練は訝し気にじっと麻生を見ている。
正直なところ麻生は迷っていた。今ここで彼を迎え入れてしまえば、関係が曖昧になってしまう。もちろん断ったとしても今後もやってくるだろう、それでなくても好き放題している男である。それでも最初が肝心だ、そこまで考えて麻生は笑った。
これではまるで犬の躾だ。

「なに?」
俯いて笑う麻生に、遊ばせていた足を止めて練は片眉を上げて不思議そうに見た。
「いや。どうしてここにいるんだ?」
「べつに。眠れなかったんだ。それだけ」

嘘ではないのだろう。最後に見た時よりも幾分やつれてみえた。探偵業を始めてからも裏事情が入らないわけではない。ましてや、春日組は東京でも最大級の暴力団だ。突然のしかかった若頭の肩書に練が奮闘している噂は否応なく耳にはいっている。

「それで眠れたのか?」
「少しはね」
「それだけじゃないんだろ?」
「なにが」
「少なくとも寝不足だけならお前ならいくらでも薬が手に入るはずだ。違うか?わざわざ俺のところに来る必要はない。俺はヤクザと関わるのも、犯罪の片棒も担ぐのもごめんだからな」
くくっと笑いながら練はひでぇなと言って、わざとらしく肩を上下させた。
「単純に会いたかったからとか思えないの?」
練は不意に真顔で大きな目でじっと麻生を見つめた。
「・・・本当にそれだけか」
「ま、それだけじゃないのはホント」
練がニヤリと笑う。
「お前な・・・」
「今日一日付き合ってよ。東京以外ならどこでもいいからさ。大丈夫、ヤバイことに巻き込んだりとか、トラブルじゃないから」
事務椅子から立ち上りながらいうと練はにっこりと笑った。
「お前とかかわる時点で十分トラブルだ。ヤクザと関わるのは断ると言っただろ。第一、仕事がある」

一流ホテルで月に1度行われるワインソムリエの講習会に出ている妻とその講師の関係を気にする夫からの依頼だった。多くは出せないからと、講習とその後の妻の行動を見てきてほしいという一日限りの仕事だ。
「キャンセルしろよ」
「無ー・・」
麻生が無茶を言うなという前に電話が鳴った。
「出れば?」
麻生が勢い良くベッドから降りたせいで、古いベッドは大きく軋んだ。足早に練の横を通りすぎて電話に出る。名乗りながら電話越しに麻生は目の端で練を追った。
さっきまで麻生が座っていたベッドへ乗り上げ、練は布団の匂いを嗅いでいる。
なにしてるんだ、あいつは。

「-ええ、分かりました。いえ、構いませんよ。それでは。」
麻生は受話器をおいてからため息混じりに練を見た。
「ねぇ、この布団干したほうがいいよ」
「ほっといてくれ」
ベッドの上で練は満足気に目を細めている。
「それよりお前、仕組んだな?」
不遜な態度で足を組んで座る練を麻生は睨んだ。電話は依頼人からで、妻が体調を崩して講習を欠席するのでキャンセルさせてほしい、後日改めて依頼をする。すでに発生している必要経費があれば支払うとの事だった。特に何もかかっていないので費用はいらないと断った。おそらくもうこの依頼は来ないだろう。
ふっと笑いながら練は麻生を見上げた。
「なんのこといってるかさっぱりわかんねぇよ。ま、とりあえず付き合ってよ。あんたに話したいことがある」



+++





「練、窓をしめろ」
麻生が、捨てるなよと言う前に、吸っていたダンヒルを窓から投げ捨てて練は窓を閉めた。ハンドルを握りながら麻生はサイドミラー越しに練が投げ捨てた吸い殻を目で追い、後ろの車が轢くのを確認した。
「たばこを捨てるな。だいたい高速で窓を全開にする奴があるか」
「そ?俺はきらいじゃないけど」
「お前、見つかったらまずいんじゃないのか?」
「だから、別に追われてるわけじゃないってば。俺がいないことである契約が成立するんだ。だから今日一日組にいなければそれでいいんだよ」
そう言いながら助手席に深く背を預け、練は目を閉じた。
「おい、寝るなら行き先を言え。どこに行けばいいんだ?」
「どこでもいいよ。少なくとも都内じゃなければ。」
横目でみると、練は目をつぶったままだった。どうやら本気でそのまま寝るつもりらしい。
疲れているのだろう。

先代組長の遺言通りに杯を受けたからといって組全員が納得しているわけではない。組の中も外もまだ浮き足立っている、今ならまだ叩けばどうにかなるのではないかという連中のやっかみや抗争が絶えない。練は組でも絶大の影響力があった韮崎の愛人であり、金を生む道具だった。いくら莫大な金を持っていようとそれだけでいきなり愛人から幹部になった成り上がりを心良く受け入れるような連中ではない。春日組と麻生の事務所は離れているが、それでも噂は流れてくる。
そんな連中のやっかみや抗争を練がどんな手段を用いて黙らせているのかもー。

結局、麻生は迷ったままだった。
韮崎が死んでから、再び練は帰る場所を探していた。そして少なくとも麻生といる間、あの殺風景で貧相な事務所は彼の帰る場所の一つだったはずなのだ。練に故郷を取り戻してやりたい、そう思っているのにそれを再び奪ってしまうのではないかと思うと、完全に関係を断ち切る事はできなかった。そもそも、そんなつもりは毛頭ない。だが、今の練を受け入れるつもりもない。

「話がある」と練はいった。
どんな事情があるのかは知らないが、少なくとも別れを切り出してから、いままで会いに来たことはない。何度か電話をかけてきたことはあったが、訪ねて来たことは一度もなかったのだ。わざわざ自分を連れ出す計画を立ててまでやって来た理由が、知りたいと思った。

これは、単純な好奇心だと麻生は自分に言い聞かせた。




***************************************
そういうのを未練がましいっていうんだよ。続きます。
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